ストレッチ
ストレッチは、関節の可動域を拡大し、体の柔軟性を向上させ、外傷を予防します。
また、全身の血流をよくし、疲労回復を早め、治癒能力を向上させます。
当院では、症状に応じたストレッチを行っていきます。
スタティックストレッチ
体を静止させ、ゆっくりと呼吸をしながら反動を使わずに関節の可動域を段階的に増していき、無理のない程度に筋肉が伸ばされた状態をしばらく保持します。(15~60秒間)を1~3セット行います。
以下に注意点をあげます。
ストレッチングの前に、必ず体温(筋温)を上げてから行います。練習やトレーニング前であれば軽い運動の後、普段の生活の中ではなるべく入浴後。
ストレッチング中は、伸ばそうとする筋肉が弛緩していることが重要で、さらにその他の部位もできるだけリラックスしていることが望ましい。したがって、できるだけ安定感のある姿勢や場所を選ぶことが大事です。また、息を止めずゆっくりと呼吸を行うように注意することも、全身のリラックスを保つのに必要です。
目的とする筋肉や筋群だけをできるだけ個別に伸ばすことができるよう、正しいフォームの修得が必要です。そうでないと効果が出にくいばかりか、時にはケガを引き起こす可能性もあることを知っておくべきです。したがって、ストレッチングの最中は、できるだけ伸ばそうとしている筋肉に意識を集中している必要があります。また、あくまで伸ばすのは筋肉であって、腱や靭帯ではないので、ストレッチング中に腱や靭帯に痛みを感じたら、直ちにそのストレッチングを中止するようにしなければなりません。
強い痛みを感じた場合には、ゆっくりと筋肉の伸長の度合いを落とすようにします。
筋肉が伸長した状態から元に戻す時は、徐々に筋肉の緊張を解くようにします。
バリスティックストレッチ
スタティックストレッチが筋肉に対して一定方向にゆっくりと伸ばしていき伸縮性を高めるのに対し、バリスティックストレッチは動きの中で腕や足などをいろいろな方向に回すことで、関節の可動域を広げるストレッチ方法です。
サッカーのウォームアップで行われる ブラジル体操 がよく知られています。
バリスティックという言葉が示す通り、反動をつけて行うストレッチングです。スタティックストレッチが、最終伸展位を数秒間保持するのに対し、バリスティックストレッチでは、反動をつけてゆっくりリズミカルに動き、最終進展位を保持することはありません。効果に関しては、スタティックストレッチと同程度か、なかには、スタティックストレッチよりもバリスティックストレッチの方が大きいという見方もあります。
しかし、過度に大きな反動をつけると、期待される効果がないばかりか、ケガをする可能性もあるので、その実施には細心の注意を払う必要があります。また、パートナーを用いて受動的に行う場合、スタティックストレッチだと、パートナーが相手の様子を伺いながらゆっくり行えるのに対し、バリスティックストレッチでは反動の調節が難しく、必要以上にストレッチしてしまいがちです。したがって、受動的にバリスティックストレッチをすることはあまり勧められません。
また、ケガをしている部位に行うことも、リハビリ段階の中期や後期を除いては、適切ではないでしょう。
反動は、最初は小さく、徐々にその動きの範囲を広げていき、最終的には痛みのない範囲で可動域いっぱいまで達するようにします。スタティックストレッチと違い、絶対に痛みを感じない程度で行うようにしてください。
バリスティックストレッチを行う時は、それだけを単独で行うよりも、スタティックストレッチと組み合わせて、その直後に実施した方が、より安全で、効果的と言えます。
PNFストレッチ(保険外実費となります)
(Proprioceptive Nueromuscular Facilitating:固有受容神経筋即通法)
主働筋と拮抗筋のどちらか、あるいは両方において、収縮と弛緩(ストレッチ)を交互に繰り返すストレッチングの方法で、伸ばされている筋肉の収縮を抑制する神経系の応答を利用したものです。この作用によって、筋肉の伸長時における抵抗が低下し、より効果的にストレッチングを行うことができます。PNFストレッチは、また主働筋のアイソメトリックまたはコンセントリックな収縮によって筋力も強化されるといった副次的な効果ももたらされます。
スタティックストレッチと比較してみた場合も、柔軟性向上に関して、より高い効果があるかもしれません。また近年では、ただ単にスタティックストレッチによって筋肉を伸ばすだけだと、その直後その筋肉によって発揮される筋力レベルは、ストレッチをしなかった場合に比べ、わずかではあるが低下するといった研究報告もなされています(確定的な事実ではなく、あくまで一つの意見なので、各人が実際に経験して判断してみる必要があります)。それに対して、PNFストレッチでは、逆に筋線維の動員能力を増し、より生理学的限界に近い筋力を発揮させることができる可能性が示唆されています。つまり、ウォーミング・アップの一環として行うのに、より適したストレッチであると考えられます。PNFの実施にあたって大事なことは、より安全に行うために正しいテクニックを修得しておかなければならないということです。
PNFストレッチの代表的なテクニックとして、以下の3つが挙げられ、基本的にパートナーを使うことを前提とした具体的な方法を説明します。
ホールド・リラックス
ストレッチさせようとする筋肉に対して、まずスタティックストレッチを5~10秒間ほど行います。次にパートナーの合図とともに、伸長されている筋肉を収縮させます。この時、パートナーはその関節が動かないようにしっかり固定します(すなわち、筋肉はアイソメトリックな収縮をしている状態となる)。これを3~5秒間ほど続けます。
その後、パートナーの合図によって再び筋肉を弛緩させ、パートナーはスタティックストレッチを5~10秒間ほど行います。
以上の過程を3~5セットほど繰り返します。
注意点としては、パートナーは同じ位置で筋肉の収縮と弛緩を繰り返すのではなく、セットが進むにつれ、徐々に可動域が増すようにしていくことです。そして何よりも大事なのが、ストレッチするタイミングです。なぜなら、筋肉は伸長反射とは別に、伸展位において随意収縮を行おうとすると、逆に筋肉の収縮を抑制する働きがあるからです。随意運動を止めた直後はその抑制効果が維持されているため、パートナーはこのタイミングを逃さないよう、筋肉を弛緩させた直後に、さらに筋肉を伸ばすように心がけます。そうでなければ、徒手抵抗によるただのアイソメトリックな筋力トレーニングになってしまいます。
コントラクション・リラックス
ホールド・リラックス同様、スタティックストレッチから始まります。
次にパートナーの合図とともに、ホールド・リラックスとは逆にストレッチされている筋肉とは反対の拮抗筋を収縮させます。すなわち、その関節はパートナーが押している方向に動くことになります(静的柔軟性や拮抗筋の筋力によって、実際には動かない場合もある)。
そこでパートナーは、さらに同じ方向に関節が進むように、4~6秒間ほど筋肉をストレッチさせます。
そして、再び合図とともにスタティックストレッチに戻ります。
この過程を、ホールド・リラックス同様3~5セット繰り返し、セットを繰り返すごとに可動域が増すようにします。
これは、筋肉が収縮すると反射的に拮抗筋が弛緩するという筋肉の特性を利用したテクニックです。
スロー・リバーサル・ホールド・リラックス
この方法は、前述の2つの方法をいわば組み合わせた形のテクニックです。
まずスタティック・ストレッチングを行います。
次に、パートナーの合図とともに、ストレッチしようとしている筋肉のアイソメトリック収縮に入ります。
3~5秒ほどしたら、パートナーは今度は拮抗筋を収縮させるように指示し、さらにパートナー自身も主働筋がストレッチされる方向に関節を動かし、可動域を増すようにします。これを4~6秒間ほど行います。そして、最後にまたスタティックなストレッチを行うといったものです。
これを3~5セット繰り返します。
以上挙げた3つの方法は、正しいテクニックを持った人とパートナーを組んで行うのがベストですが、決して一人でできないものではありません。特にストレッチは、たまにやればいいといった類のものではないので、いつでも実施できるように少しずつ練習して、適切な技術を身に付けておくとよいでしょう。